3駅分の恋(短編小説)

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あなたに謝らないといけないことがあります。

ぼくはあなた以外の人に恋をしました。

たった3駅…

 

その間、あなたのことを片時も忘れていなかったことを信じてください。

ぼくはこの3年間変わらずあなたを愛し続けています。

しかし、名前も知らないその人に3駅の間、恋をしていたのも事実です。

あなたはぼくのことを嫌いになるでしょうか?

それでも、ちょっとだけ我慢して、長くなったこの手紙を読んでもらえたなら、ぼくの罪悪に満ちた心は少し、軽くなるのです。

姫路

ぼくは姫路駅で電車を乗り換えていました。

岡山に向かうオレンジ色の6両しかない電車の中で、ぼくは恋をしました。

それはあなたと初めて会った時に抱いた感覚と同じものです。

全く同じだと言えば、あなたは怒るでしょう。

しかし、似た感覚を前にも感じたことをぼくは覚えています。

 

ローカル線の普通電車の中は、おそらく地元の人であろう群衆で溢れかえっていました。

そんな中に美しく立っているその人を見て、ぼくは恋をしてしまったのです。

あなたによく似た立ち姿でした。

美しさの中に、すごく強いものを感じ、このぼくがあなただと錯覚したほどです。

それは真冬に咲く一輪の山茶花の様でした。

 

英賀保

次の駅を通り過ぎた時、その人があなたとは違う顔をしていると、はっきりとわかりました。

あなたがネコであれば、その人は犬。

あなたがバラであれば、その人はヒマワリほどの違いだと思います。

短く切った髪と力強い眉毛だけは、あなたとよく似ているように感じました。

 

混んでいた電車内でチラチラと見え隠れしていたその人と、3年もの間愛し続けているあなたを比較するつもりは決してありません。

むしろぼくは、あなたを他の誰かと比較するようなことは一度もしてきませんでした。

あなたは、あなただからこそ愛おしいのです。

 

だからこそ3駅の間、同時に2人の人を好きになってしまいました。

このことは浮気と呼べるものでしょうか?

もしかすると人によっては、ぼくはとても罪深い男なのかもしれません。

 

はりま勝原

恋は突然やってくるなんて言いますが、突然やってきた恋はすぐに終わりを告げました。 

その人はたった3駅、ぼくの前に立っていただけでした。

その恋が成就することは決してないでしょう。

なぜなら、ぼくはこの先の人生で、あなた以上に愛する人が現れないことを願っているからです。

それどころか名前も知らないその人が、電車に乗ってくることでさえ心のどこかで拒絶しています。

ぼくにはあなた以上に他の人を愛せる自信がありません。

 

・・・

 

嘘です。

ぼくの心は今とても罪悪に満ちてきました。

 

どうやらぼくは、いつものように小説を書く調子で文章を書いてしまったようです。

ラブレターなんて書いたことのないぼくを、あなたは笑って許してくれるでしょうか。

ぼくは初めてあなたに嘘をつきました。

「ごめんなさい」

この出来事は、全てぼくの想像です。

 

それでも、あなたに対する想いは、嘘偽りなくこの手紙に書き記しています。

ぼくはあなたを愛しています。

想像できるうる最大級の美女がぼくの目の前に立ったとしても、この気持ちは変わりません。

ぼくの好きな花はいつまでもバラです。